Saturday, September 12, 2009

「天地人」 - 天の時、地の利、人の和


シアトル別院輪番 松林芳秀



 日本の格言に、“天・地・人の三つの条件が揃えば物事は成功する”とあります。シアトル別院第77回お盆踊りフェステイバルは、実に好天に恵まれ、地の利を得、人の和に恵まれて成功裡に開催されました。

 夏の暑さの中にも、カスケード山脈から吹き降ろす山風とエリオット湾より吹き上げる涼しい風に吹かれながらのお盆踊りは、踊り子も観客もまさに天の時に恵まれた気持ちの良い天気でした。

 お盆踊りが地の利を得たことは、例年の如くグローバルなシアトル市の海のお祭りで賑わうシーフェアーの一環として開催されたことです。お盆踊りは広くシアトル市内外に宣伝され、シアトル別院前のワン・ブロックの通りの交通が遮断された踊り場は、踊り子と観客で、一時は動きも難しい程うずまりました。

 お盆踊りのお師匠さん、沢山の踊り子達、多くの観客の皆さん、別院サンガのお世話をする人々が共に和やかに、目連尊者が亡き母の慈愛に歓喜した如く、亡き人の思いを胸に、人種の境無く尊い和と友情の心で満ち溢れていました。

“天の時、地の利、人の和の「天地人」の三つが揃えば物事が成功する”と云う日本の格言が、まさに実証されたようなシアトル別院お盆踊りフェステイバルでした。関係者の方々に心よりお礼申し上げます。

 今年のNHK大河ドラマは火坂雅志原作の「天地人」です。これは戦国時代の武将・上杉謙信が語ったという「謙信語類」の中にある「天のめぐりあわせが良く、地勢の有利さに恵まれ、人々が良く和している天地人の三つの条件が揃えば、物事が成功し、或るいは戦いに勝つ」と云う言葉からきています。

 しかし、その言葉の原典は古代中国の思想家・孟子が説いた『孟子』と云う書からきています。儒教の教えを受けた孟子は、「天の時より地の利、地の利より人の和が大切である」と、人間尊重の考え方を述べています。それが日本において、物事の成功には「天地人」の三つの条件が揃う事が必要とされる様になりました。

 さて、大河ドラマ「天地人」は、上杉謙信の養子となって上杉家を継いだ景勝とその家臣で上杉家家老となった直江兼継の二人が亡き上杉謙信の精神に従って、己の「利」を捨て、命をかけて「義」の精神で、越後の領民を守りながら戦国の世を生き抜く武将の物語です。その家老・直江兼継の兜には、戦国の武将の兜にはめずらしい「愛」と云う字が付けられています。これは戦場で戦う武将の兜の字としては、一見矛盾しているように思えます。しかし、直江兼継の「愛」は儒教の義の教えに示される「仁愛」の「愛」なのです。

 仏教の「愛」は、一般に十二支縁起の八番目の「愛」で示されるように「渇愛」の意味で、迷った我執の心の意味に解釈されます。仏教は我執による「愛」ではなく、お互いが慈しみあう慈悲の心を良い心とします。直江兼継の掲げる「愛」は「仁愛」にもとずくもので、慈悲の心に通じる「愛」です。「仁」という字は、人偏に二と書きます。それは「二人の人」の「愛」で、二人の人が睦まじく和して生きる心得を示します。

 儒教で説く「仁」の意味は、『論語』第6に「仁者己欲立而立人(自分が立ちたければ、まず他人を立たせる)」と相手の思いを汲んで行動する事を教えます。又、『論語』第12では「己所不欲、勿施人於(自分がしてほしくない事を、他人にしない)」と、相手の望まないことはしないと別の角度から「仁」の意味を説いています。この様な教えはキリスト教にも黄金律としてあります。『新約聖書』第1、マタイ福音書7章12に、「汝が他人からして欲しいと思う様に他人に行動せよ」と教えています。

 お盆の行事は、自利・利他円満の慈悲の精神に満ちています。私達は、現在、数え切れない恵みの中に生かされています。この事に目覚める時、お盆を「歓喜会」と呼ぶことが出来ます。まさにお盆は「グローバルお盆」として、世界中のあらゆる人々が生かし、生かされている普遍のお慈悲に喜びと感謝の思いに浸るのです。あらゆる人々の心情がお盆踊りに良く象徴されているので、この様にお盆踊りフェステイバルが成功裡に執り行われたのだと思います。感謝・合掌

 

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