Wednesday, September 30, 2009

“KISG: シンプルを見出しなさい!”


シアトル別院輪番 松林芳秀

 私には生涯忘れられない卒業式の基調講演があります。1987年5月23日、長男の加州大学工学部卒業式に家族と共に出席しました。教授、卒業生、その家族や友達等、約一万人が会場のグリーク野外劇場を埋め尽くしました。その日は丁度、サンフランシスコ金門橋50周年式典の前日でした。たまたま卒業式の基調講演をされた電気工学部教授・ジョン・ワイナリー博士は金門橋が完成した1937年加州大学を最優秀の成績で卒業し、以来50年間教職の任にあたっていた優れた先生でした。

 そのワイナリー博士は私達の日常生活で大いに活用しているマイクロウエブやレーザーの基礎研究で有名な学者で、1992年6月、時のブッシュ大統領から米国科学賞を受賞しておられます。

 基調講演のタイトルは「KISG:アインシュタイン、マックスウエルそしてジョセフ・ストラウスの詩」という一見変わったユニークなタイトルでした。その内容は仏教徒、特に念仏者にとって非常に興味深い講演でした。側に座っていた次男に“KISG”の意味を尋ねますと、それは“Keep It Simple, Graduates!”という意味だと教えてくれました。日本語で言えば「卒業生よ シンプルであれ!」と訳されるでしょうが、私はあえて「卒業生よ シンプルを見出しなさい!」と解釈しました。

 ワイナリー博士によりますと、基調講演のタイトルである「アインシュタイン、マックスウエルそしてジョセフ・ストラウスの詩」の詩とは、丁度、日本の俳句の様なシンプルを意味すると述べられました。俳句は5・7・5の文字からなる世界で一番短い詩の一つで、そこには言葉では言い尽くせない広大で奥深い自然の情景や日本語の“わび”とか“さび”の幽玄なる世界がシンプルな言葉で表現されます。

 そこで詩人でもない科学者のアインシュタイン、マックスウエル、ジョセフ・ストラウスの詩とは一体何かと云いますと、それは科学者が膨大な知識を駆逐し、複雑な自然界を鋭く洞察して、シンプルな科学的成果を生み出す事を意味していたのです。

 ジョセフ・ストラウスは1934年に、4年の歳月をかけて多くの人々が不可能と思っていた吊り橋の金門橋を太平洋の入り口に建設した主任建築家でした。太平洋を背景に浮かび立つ美しく壮大な金門橋の建設には風速状態、力学、引力など当時の学問の広い分野からの考察により、膨大な科学知識の結晶の上に、金門橋の建築が実現されたのです。それをワイナリー博士は“詩”と呼んだのです。

 又、マックスウエル博士はスコットランド生まれの物理学者で地球上に存在する電磁気を研究してその恒等式を生み出しました。更に、アインシュタイン博士はドイツ生まれの米国の物理学者で相対性原理を創設し、質量とエネルギーの恒等式であるアインシュタイン恒等式を生み出した20世紀の生んだ最高の科学者の一人です。そして、アインシュタイン博士は原子爆弾の原理を発見した学者でもあります。これら二人の科学者は莫大な未知の世界より、俳句のエッセンスのような恒等式を生み出し、今日の近代文明の基礎作りに貢献されたのです。ワイナリー博士は学業を終えた卒業生に向かって、その成果を生み出す様に訓示されたのでした。

 仏教は2500余年前、釈尊によって説かれ、一般には8万4千の法門と云われるように多種多様で複雑な教えがあります。しかし、親鸞聖人によって釈尊の教えはシンプルに、南無の私達が阿弥陀仏と一体となる南無阿弥陀仏の恒等式を示し、私達が仏になる教えを完成されました。

 ワイナリー博士の基調講演で、私は“KISB: 仏教徒よシンプルを見出しなさい!”と頂きました。科学者が恒等式を生み出した様に、親鸞聖人は仏凡一体のお念仏の教えを示されました。合掌

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